機械式時計を語るなら。ゼニスの存在は欠かせない

機械式時計を語るなら。ゼニスの存在は欠かせない

時計大国のスイスでも、自社で一貫製造できるメーカーは限られる。それだけ高い技術が必要なのだが、老舗『ゼニス』は古くからその体制を厳守する数少ないブランドである。

ワダ ソウシ

2018.09.12

ゼニス(ZENITH)
腕時計

希少な100年ブランド。『ゼニス』を知っているか

『ゼニス』が創業されたル・ロックルはフランスとの国境に近いヌーシャテル州に位置し、ラ・ショー・ド・フォンの中心市街とともに“時計製造業の都市計画”として2009年に世界遺産へ登録された、スイス時計産業の聖地として知られている。

そのなかでも『ゼニス』は1865年に前身会社が興された古参ブランドで、当時からマニュファクチュール(自社一貫生産)の体制を敷いており、世界屈指の技術力を現代に伝えている。とりわけムーブメントの製造に秀でており、傑作「エル・プリメロ」は同社を象徴する存在としてあまりにも有名。そのほかにも飛行士に愛用されたパイロットウォッチや文字盤の一部をくり抜いたオープンハートモデルを世に広めるなど、機構とデザインの両面で類まれなアイデアを発揮し続けている。

マニュファクチュールという概念を浸透させた『ゼニス』

1865年、ジョルジュ・ファーブル=ジャコ氏が22歳のときに前身会社「マニュファクチュール・ド・モントル」を創業し、1911年に天空の頂点を意味する『ゼニス』と名乗るようになった。その哲学は、ずばり自社一貫生産であること。20世紀前半には、従業員数1000人規模のマニュファクチュールブランドへと成長し、現在と同じル・ロックルの地に巨大な製造拠点を設けるに至る。そこから万国博覧会で金賞を受賞する懐中時計やムーブメントの傑作品を数々と輩出し、名実ともに時計界の頂点に上り詰めたのである。

しかし多くのスイスブランドと同じく、クォーツの登場によって経営は窮地に立たされ、一時はアメリカ企業の傘下に入る。やがてすべての製造をクォーツのみに限定することが決められたが、古参の技術者がこれに反対。伝統的な工具や設計図、そして技術を密かに継承していた。1980年代に入ると再び機械式時計が注目を浴び、これらのアーカイブにより『ゼニス』は現在のようなマニュファクチュール体制を再興し、成功を収めることとなる。

『ゼニス』を語るうえで欠かせない、「エル・プリメロ」というムーブ

『ゼニス』のアイコン的な存在であるムーブメント「エル・プリメロ」は、1969年に同社によって開発された、世界初のクロノグラフ専用自動巻きムーブメントである。ほぼ同時期、モジュール式の自動巻きクロノ・ムーブが他社から発表されたが、『ゼニス』はより技術的にレベルの高い一体型の「エル・プリメロ」を完成させた。この傑作ムーブを使ったクロノグラフによって一時代を築き、現在もベースとなる設計を受け継いでいる。

もちろんそれ以外にも、1994年開発の薄型自動巻きムーブ「エリート」からハイエンドな複雑ムーブまで自社製造するなど、これまでに取得した特許数は300以上にのぼる。

クロノグラフ・ムーブメントの頂点とされる「エル・プリメロ」が今なお高く評価されているのは、専用設計という理由のほかに“ハイビート”であるから。一般的に機械式ムーブは振動数が増えるほど高精度とされている。振動数とはムーブ内の精度を司るテンプというパーツが、振り子のように振幅する数のこと。「エル・プリメロ」の振動数は機械式最高レベルの毎時3万6000振動であり、実に1秒間に10回も振幅している。そのため精度が高く、さらに1/10秒までのクロノグラフ計測を可能にしている。この「エル・プリメロ」の高機能に着目した『ロレックス』は、かつて4代目デイトナ(1988年〜2000年に生産)のベースムーブとしても採用していた。

やっぱり人気なのは、メンズもレディースもオープンハート

『ゼニス』の特徴的なデザインの1つに、「オープンハート」がある。文字盤の一部をくり抜き、メカニカルな機械式ムーブメントの内部を見せることで、作動している様子や精緻な作りを楽しめるユニークさが好評を得ているのだ。現在でこそ様々なブランドが同様の意匠を取り入れているが、『ゼニス』はそのトレンドを巻き起こした先駆者的存在。傑作「エル・プリメロ」の機構を文字盤側からでも堪能できるとあって、根強い人気を誇る。また文字盤全面をスケルトン化してムーブが丸ごと見えるモデルもリリースしており、とくに2017年発表の「デファイ エル・プリメロ21」は発売以来オーダーが止まないヒット作となっている。

腕時計ライターが厳選。ゼニスの傑作10選

スポーツウォッチからドレスウォッチまで幅広く手掛ける『ゼニス』だが、どれも自社生産というオリジナリティあふれるコレクションは実に魅力的。またその外観は、クラシックと未来志向を巧みに使い分けているのも特徴だ。押さえておきたい代表作10本を紹介しよう。

モデル1クロノマスター 1969

2003年に登場したロングセラー・クロノグラフ・シリーズ。搭載するハイビートな自動巻きムーブメント「エル・プリメロ4061」を、文字盤9時-12時位置のオープンハートより眺めることが可能だ。最新仕様はシリコン製のアンクルとガンギ車を採用し、耐磁性や耐久性を向上させている。サンレイ仕上げのシルバーダイヤル。シースルーバック。ケース径42mm。10気圧防水。

モデル2エル・プリメロ 36000VpH

『ゼニス』初の自動巻きクロノグラフとして発表された、1969年製エル・プリメロの意匠を踏襲する非オープンダイヤル仕様。サンレイ装飾のシルバーダイヤルとブルー、ブラック、グレーの3色カウンターのカラーリングは、オリジナルモデルを彷彿とさせるデザインだ。シールスーバックからキャリバー「エル・プリメロ400B」を眺めることができる。ケース径42mm。10気圧防水。自動巻き。

モデル3クロノマスター エル・プリメロ フルオープン

クロノグラフの作動系パーツに操作性や耐久性に優れるコラムホイールを使った「エル・プリメロ4047B」を、ダイヤル全体をオープン化することでそのメカニズムを存分に楽しめる逸品。2時位置に視認性の高いビッグデイトを、6時位置にムーン&サンフェイズの表示をレイアウト。クロノマスターシリーズでは希少なブレスレットをセット。シースルーバック。ケース径45mm。10気圧防水。自動巻き。

モデル4デファイ エル・プリメロ21

2017年にリリースされた新型キャリバー「エル・プリメロ9004」搭載のニューモデル。時刻表示用とクロノグラフ用で脱進機を分け、前者は毎秒10振動で、後者は毎秒100振動で作動する。なお時刻表示の機構は手巻きもできる自動巻きだが、クロノ機構は手巻きのみになっており、残り駆動時間を示すゲージを12時位置に備える。1/100秒までクロノグラフ計測が可能。直径44mmのブラックセラミックケース。10気圧防水。

モデル5デファイ クラシック

2018年発表のデファイのシンプルモデル。シリーズの未来的なコンセプトを継ぎつつ、普段使いがしやすい3針式へと置き換えた。カレンダーディスクまで透けて見えるスケルトンダイヤルの6時位置に、日付表示を装備。直径41mmのチタンケースに、毎時2万8800振動の自動巻きムーブメント「エリート670SK」を搭載する。アリゲーターレザーでコーティングしたラバーストラップをセットしており、夏場でも使い勝手は上々だ。シースルーバック。10気圧防水。

モデル6ヘリテージ パイロット トンアップ

“カフェレーサー”と呼ばれる、1960年代にイギリスで流行したバイクカルチャーをコンセプトにした自動巻きクロノグラフ。ベースデザインは『ゼニス』が1939年に開発した航空時計の傑作「タイプ20」だ。ヴィンテージ感を演出するエイジング加工を施した45mmのステンレススチールケースに、最新の「エル・プリメロ4069」を搭載する。ケースバックにノスタルジックなバイカーの絵を刻印。10気圧防水。

モデル7パイロット タイプXX エクストラスペシャル

ルイ・ブレリオ氏による1909年のドーバー海峡横断飛行の初成功など、『ゼニス』の時計は航空史における偉大なシーンで利用されてきた。その象徴的な1本である「タイプ20」を、現代的なデザインとスペックで再現した3針ウォッチ。エイジング加工した40mmのステンレスケースとグレイン加工したスレートグレーダイヤルで、初期航空時計のレトロスタイルを表現。自動巻きムーブ「エリート679」を搭載。10気圧防水。

モデル8パイロット クロノメトロ TIPO CP-2 フライバック

ローマのA.カイレリ社がイタリア空軍向けに納入したことから、コレクターの間で「カイレリ モデル」と呼ばれる1960年代製の人気ミリタリークロノグラフを現代に復刻。高性能なコラムホイールパーツを使った「エル・プリメロ405B」は、針を止めることなく連続してクロノ計測ができるフライバック機能を備える。3時位置に30分積算計、9時位置にスモールセコンドを配置。シースルーバック。ケース径43mm。10気圧防水。自動巻き。

モデル9エリート クロノグラフ クラシック

文字盤3時位置に30分積算計、9時位置にスモールセコンドを配したシンプルな2カウンタークロノグラフ。気品あふれるクラシックデザインを特徴としつつ、コラムホイール採用の現代的な自動巻きムーブメント「エル・プリメロ4069」を搭載する。わずか11.8mm厚のスマートな設計も高評価の理由。ラバーで裏打ちした、アリゲーターストラップをセット。シースルーバック。ケース径42mm。5気圧防水。

モデル10エリート クラシック

上のモデルの3針バージョンで、直径39mm、厚さ9.5mmのスリムケースがセールスポイント。スーツやシャツの袖口で邪魔にならないサイズとシンプルなデザインのため、ビジネスマンやフォーマルな場にも打ってつけな1本だ。毎秒8振動の自動巻きムーブメント、「エリート679」を搭載する。ステンレスモデルの文字盤はサンレイ装飾を施したブルーのほかに、シルバーとブラックがラインアップ。シースルーバック。5気圧防水

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